「ともに　いのち　かがやく　世界へ」
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　沖　井　智　子
　現在の基幹運動のスローガンです。
現代社会の動きも反映されたスローガンでしょう。そして、真宗の教えの
根底のところから出されたものと、私はうけとっています。
　＜家族＞
　私の知人のご家族のお話をしましょう。
その家族の次男さんが、小児病棟に入院をしたときのことです。
そのお家はおにいちゃんとおねえちゃんがいました。お姉ちゃんは、もう
結婚をしていました。お兄ちゃんは、子供の頃の高熱が原因で知的障害を
もっていました。歳の離れた弟のところに、毎日お見舞いに来ていたので
す。そのお兄ちゃんが、突然リンパ腺癌で亡くなってしまいました。あっ
という間のことでした。小児病棟中、シーンとしてしまいました。みんな
が、我が事としてお兄ちゃんの死を受け止めていました。
　そんななかで、弟君は「お兄ちゃんの分まで、がんばる！」と、心臓の
手術を受け、元気になりました。すばらしい家族の支えでしたし、本人の
前向きの姿でした。その子は何度も入退院を繰り返していました。そして、
高校を卒業し仕事をするようになりました。身体も弱く、多少の知的障害
も見られたものですから、就職先は障害者の方々も受け入れてくださって
いる「パン屋さん」でした。
なかなか、お友達も出来ず、一人で出かけることも出来ない彼は、この
「パン屋さん」が居場所になったのです。自分の存在価値が、感じ取れた
のでしょうね。
残念ながら、今年のお盆が終わった頃、体調をくずして亡くなられたので
すが、そのときまで、「パン屋さん」に行くことを楽しみにしていたそう
です。いつも、きらきらと輝く眼をして、私達の心を明るく綺麗にしてく
れていたんです。
　彼の場合は、このようにして自分の居場所を見つけ、働く喜びを噛締め
ていったのです。
　＜受験拒否＞
　また別の子供さんには、こんな事もありました。
やはり就職をする時期になってのことです。子供の頃の病気と友達になっ
て薬を飲みながらも、ごくごく普通の生活を送っています。親元を離れて
大学生活を送っています。徹夜もします。
その子が、就職の願書を出したときのことです。願書は受け付けられたの
ですが、受験日５日前になって、親元に「受験はおことわりします。病気
が治ってからにしてください。」という電話がありました。成人した子が
自分の将来を考えて出した願書に対して、本人にではなく親に連絡があっ
たのです。本人に連絡が届いたのは受験日の前日でした。そして、なによ
り病気を持っているがためにお断りがあったという事実です。
眼に見える「外的障害」、眼には見えない「内的障害」。外的障害の方に
は、まだまだですが、だいぶ配慮がなされるようになって来ました。内的
障害の方々には、まだ眼が向いていないようです。
　＜スローガン＞
スローガン「ともに　いのち　かがやく　世界に」を考えたときに、私達
が普段見落としていることに、気付かされます。
私達は、ついつい自分の目に付いたものに対して、自分の物差しでしか考
えていないのではないでしょうか？
眼に見えていないところで、泣いているいのちが沢山あるのです。そして、
居場所を無くしてしまっているのです。そういう「いのち」にをも、眼を
向けていく。「病気を持っているから、あなたは要らないです。」という
世界では、あまりにも悲しいですね。
「パン屋さん」ように、その障害を個性として受け止めて一緒に居場所を
作っていく。そのように、自分さえよければではなく、「おたがいさま。」
「おかげさま。」という気持ちで触れ合い、お互いに「いのち　かがやく
　世界」を創っていくことが、大切なのではないでしょうか。
それが、「阿弥陀さま」に願われた「いのち」をともに育んでいくという
ことだと。」そして、それが、「基幹運動の根底にある願いである。」
そのねがいをスローガンとして掲げたのだと私は受け取っています。
　みなさんも、もっと身の回りのことにも、眼を向けてみませんか？

学びの友　2007.12　中央仏教学院通信教育部