祖母を通して知った父娘の愛

　私はおばあさんを知りません、私が生まれる前に亡くなりました。でも、あ
るときおばあさんが私に会いにきてくれたのです。・・・それはおばあさんの
50回忌でしたでしょうか。
　建設会社でマンションを建てていた私が、縁遇って養子に行くことが決まっ
たとき、父が「足利義山和上はお前のおばあさんのおじいさんだ、読んでみる
といい」と渡してくれた本がありました。和上の法語や手紙・和歌をあつめた
甲斐和里子さんの『義山法語』でした。その和上からの親戚関係を記したもの
をご法事の折にいただきました。それを見ると、『義山法語』にでてくる「三
女おとぢ」が私のおばあさんの母親であったことに気がつきました。聞くとそ
のおとぢさんはお嫁に行きますが、娘一人を残し若くして亡くなってしまった
のです。私のおばあさんってどんな人だったのか、どんな人が育ててくださっ
たのか、おばあさんのことを知りたいと読みました。そこには、若いお母さん
の「お念仏とは何か、浄土真宗のご信心とはどのようなありようか」という問
いかけに、どこまでもやさしく答えている父親の会話が広がっていました。そ
のとき、おばあさんが目の前にきてくださったと感じました。
　明治の半ばのころです、父である和上は遠く離れた学校で教鞭をとっていま
す。そこに娘が大病にかかったとの便りがきます。娘の心中を思い、その手を
とり語り合いたくても遠く離れて出来ません。ただ娘に今一番大事なことは
「ひとへに仏の御ちからにて助けたまはるなれば・・・ただこのあさましきま
まを、おとさぬとある仏をたよりとして外に何事も考ふるにおよばず。・・・」
と手紙を出します。病気のこと、今の苦しみなどはどこにもなく、ひたすらに
ご信心のありようを説かれています。
　和上はさらに、「いよいよ重患となり往生の日もせまれり」と聞き　ふたた
び手紙を遣わします。「・・・・・いろいろ案じ候へば、ワヤワヤとわからぬ
やうになるべければ、それをばまゝよとうちすてゝ、このまゝを御助けとよろ
こぶべし。・・・・・かへすがえす往生のことについては、一切如来様が引き
うけて居てくださるから、おまへは、ちつとも心配せいでもよろしく候。　あ
らあらかしこ。」　ひたすらに阿弥陀さまのお救いを説かれていますが、末尾
の言葉に父親の愛情がこもっているようで、ありがたいなあと涙がこぼれまし
た。
　私の父はそんな手紙をよこすことはありませんでしたが、自分ではうまくお
話しすることは出来ないからと思ったのでしょうか。この法語がいつかお前に
教えてくれるときがあると思っていたのでしょうか。父ともっと話をしてみた
かったと感じたことでした。
沖井玲爾（おきいれいじ）
「みどうさん」2006.3月号