人生観
　もう三十年近く前、祖母が亡くなった時です。たった六歳の私の従妹が、こう
つぶやきました。『私、生れてこなければよかった・・・』これを聞いた私たち
年嵩のいとこは、大好きなおばあちゃんだったから悲しみがまた特別なんだなあ、
くらいにしか感じていませんでした。ところが、住職である父は、この子の人生
がこれから先、この考えの上になりたってしまったのでは大変だ、という思いで、
胸がいっぱいになったと言います。
　『生れてこなければよかった。』これは、自分にもやがて訪れるに違いない死
を予想し、その上に「またこんな悲しみにあうのはいやだ」という思いからの言
葉であったのでしょう。
　生があり死がある。苦があり楽がある。喜びがあり悲しみがある。全部ひっく
るめて、私の人生です。私の人生は、生きていくのがいやになるほど暗いもので
しょうか？イヤイヤ、捨てたもんじゃないはずです。すばらしい出会いがあった
り、悩みのトンネルからぬけ出た時の爽快感がここちよかったり、自分の経験が
人のお役にたったりと・・・・・。
　如来さまは、私たちを必ず救うと誓って下さいました。だから、私たちの行く
先は決まっているのです。だったら、今を生きている私たちは、生かされて生き
ていることを喜び、苦しみも悲しみもすべて私のものとして受けとめて、前向き
な人生をおくりたいものです。「生きていることはすばらしい」と思える人生を。
如来さまのみ教えを信じ喜ぶことができる私たちには、一緒に喜び悲しみ苦しん
でくれる同朋がいます。そして、死して後も共にできる同朋がいる、これこそ
「最高の人生」と呼べるのではないでしょうか。
　えっ、あの六歳の子のその後ですか？三人の子を持つたくましい母親になって、
毎日を一生懸命に生きています。
　　　　沖井　智子　本願寺新報　2001/7/1　共生共感共歩