ｿｳﾘﾝﾒｰﾙ　No.51　　　2008.2.8

「お布施」

隣のお嫁さんにまたあった。

ちょっと、お坊さん教えてよ

なんだい、忙しそうだなあ、急ぎかい

今度同級生で厄落としのお参りにお寺に行くんだけど、
 お包みもって行かなきゃならないでしょ、なんて書けばいいの。
 お経料とか、読経代とか、お供えとかみんな言うことが違うのよね。

いくらお参りしても厄なんか落ちないぞ、日頃の心がけが大事なんじゃ。
 厄年とは、体調の変わる年頃だから節制しろよということじゃ。
 お参りしたからといって好き放題していては病気になるぞ。
 みんなをうちに連れてきなさい、お話してあげるから。

お坊さんのお寺は効き目ないから行かないことになってるの。で、なんて書けばいいの。

ちっとも分かっていないなあ。まあいい。それはな、お布施と書くのがいいのじゃ。
 決してお経を読んでもらった代金ではないからな。

え、代金じゃないの、いくら包めばいいか聞こうと思っていたのに。

そうじゃ、施しじゃからな。お前さんたちはお坊さんにお金を施す、
 お坊さんはみんなに教えをつたえるという施しをする。お互いに施しをする、
 これもみな修行じゃな。

お金を上げるのが何で修行なの。

代金だと決められた金額を渡すのが当たり前と思うであろう。
 ところが、いくらでもいい、となるといくらにしようか悩むであろう。
 少しでも得をしようという欲が出てくるのじゃ、その欲を捨てるための修行じゃよ。

お坊さんが歳末助け合いの募金をやってるのを見て、遠回りしてかえったことあったけど。
 安売りのチラシを見て買いに行ったのに、お坊さんにとられたんじゃ意味ないと思ってさ。

そうじゃろう、向かいの歩道を通っていたのを見てたよ。それが欲じゃ、
 その気持ちを捨てて、わずかなお金でも役に立てもらおうといった気持ちを起こすこと。
 それが修行じゃな。

じゃあ、お布施は少しでもいいんだ。

それがいかんのじゃ、少しでもいいという気持ちを捨てて、
 できるだけ多く施してあげようという気持ちを持つ、これが修行になるのじゃ。

なんだ、いっぱい欲しいんじゃない。

いやそうではない、多くても少なくても、同じように接すること、
 これがお坊さんの大事なところじゃ。だからみんなの修行になる。

なんだかだまされているような気がするんだけど。

お布施をするときに三輪清浄といって三つの大事なことがあるという。
 それは、布施をする人の気持ちが清浄であること、
 布施を受ける人の気持ちが清浄であること、
 布施するものが清浄であること、
 なんじゃよ。どれかが汚れていると布施にならんのじゃ。

なんだか難しくなってきたわね。続きは明日にしてよ。

難しい話ではないのじゃ、
 学校の先生にいじめについてお話をお願いしたことがあったろう。
 先生はボランティアできてくださったのじゃが、こちらは申し訳ないとお礼を準備した。
 ちゃんとスカウト育成会の会費の中からな。
 先生もこちらもありがとうという気持ちだけで、いいつどいができた。

あれはよかったね。

それが、この三輪清浄じゃ。ところがこのお礼は先生には渡さなかった。

あら、けちねえ

そうではない、先生は公務員だから、お金を受け取るとアルバイトをしていることになって、
 倫理規定違反になるのじゃそうだ。

お礼のつもりでも、先生が首になっちゃうの。

みんなが良心的とは限らんからな。公務員にお金をわたせばわいろと思われる。
 三輪汚濁とでもいうところか。世間をお騒がせしている元事務次官などはいい例じゃ。
 仕事をもらいたくてゴルフ接待をする業者、その業者に仕事を回してやる役人、
 その費用は裏金と、みな汚れきっている。

政治家だって悪いことしてるじゃない。

公務員は税金で給料を払っているが、政治家はそれ以外に政治献金を受けることができる。
 先生のような方に議員になっていただきたいとして寄付していただいたお金で選挙運動
 などをおこなうのじゃな。だからこのお金はわいろとは思わなかった、政治献金だと
 思ったので、ちゃんと届けております。業者に便宜を図ったことはありません、
 となると問題にはできん。業者のほうが下心があってもな。

あらずるいのね。

ところがそのお金が裏金であったり、政治献金の報告がしてなかったり、
 「よっしゃよっしゃ」といっていたりする政治家がいるから問題なのじゃな。
 ただなかなか証拠がつかめないから難しい。

だから、なかなか捕まらない訳ね。

そう、お布施が修行だという意味が分かったね。
 こんなにいっぱいならいいお経を読んでもらえると思ったり、お姑さんからうまくいって
 出させたお金で済まそうと思ってはいかんぞ。お坊さんのほうでも、こんなちょっとでは
 たいしたお経はできんぞと思ったりしてもいかんけどな。

でも、ちょっとでも、臨時収入でしょ、小遣いになるわよね。坊主丸儲けっていうじゃない。

いや、お坊さんの小遣いにはならんのじゃ、お寺の収入となってな。
 お坊さんはお寺から給料をもらって生活をしている、だからちゃんと税金も納めている。
 所得税に市・県民税、今問題の年金も納めているぞ。

へー、じゃあお寺は税金がかからないって言うのはうそなの。

お寺の土地建物には税金はかからんよ、お寺に納められたお布施や護持会費などから
 お寺を維持するための経費を払って、残りからお坊さんの給料を出すのじゃ。
 給料からちゃんと源泉所得税を天引きしているよ。

ふつうの会社と変わらないね、
 でも毎月同じようにお葬式や法事があるわけじゃないんでしょ。
 毎日庭掃除しているときあるものね、そんなときはどうするの。

それはまたいずれ教えてあげよう。今日はここまで、ご飯の時間じゃ。

数日たって、表で隣のお嫁さんにあった。

たまにはお茶でもどうじゃな。

あらデートのお誘い、私は人妻よ、どこに行こうって言うの。

お寺に上がってお茶でもどうかなといっておるのじゃ、勘違いするな。

なーんだ、でもお寺には檀家さんしか入っていけないんじゃないの。

そんなことはない、どなたが来てもいいよ、まああがりなさい。

この間の続き教えてくれるの。毎日暇なお寺はどうやって食べていくのかって。

そうそうそれな、そういう時は近所の奥さん相手にお茶を飲むのじゃ。

そんなことじゃご飯は食べられないでしょ。

まんじゅうは食べられるぞ。

冗談ばっかり言ってないで、ちょっとは心配してあげているんだから。

そうじゃな、だからお寺には税金がかからないというのはそこなんじゃ、
 ふつう会社では経費を差し引いた利益が上がると、税金を納めなければならない。
 お寺は経費を引いて残ったお金を蓄えておける。そのお金で、収入がないときにも
 何とかお寺を維持しなさいということじゃ。お金がなくなったので、
 お寺は解散というようになったら、多くの人が困るであろうからな。

お金がたまるようなお寺はいいけど、お坊さんのところはそんなに残るの？

残念ながら残らんのじゃ、けっこう大変なんじゃぞ。
 だから別の勤めを持っているお坊さんもいる。

年金もらえるようになったら住職が帰ってくるからって、
 村の人が交代で掃除しているお寺あるよね。

かえって来れればいいが、年金がいつ出るか分からなくなりそうじゃからな。

なんだかお坊さんも大変みたいね。

あんまりお金のことばかり言っていると、空しくなるな。
 お金のかからないお布施を教えてやろうか。

あらそんなのあるの、早く教えてよ。

無財の七施といってな、わかりやすく言うと、
 優しい眼で見る、
 ほがらかな顔をする、
 優しい言葉を使う、
 骨身を惜しまず人の世話をする、
 温かい心で人に接する、
 気持ちよく席を譲る、
 優しく人を家に迎えてあげる、
こんなことじゃがな。

なんだ簡単じゃない。

本当にそうか。お、くそ坊主がまた来たといった顔してみてないか。

ふふ、見つかったか。
 そうだね、こないだ電車に乗っていたらおじいさんが乗ってきたから、
 席譲ってあげるよって言ったら、要らんって怒られちゃってさ、やな爺。

それはお前さんも悪い。だいたい、電車の席は自分のものじゃあないであろう。
 それを自分のもののような顔をしてゆずってあげるとはなんだい、
 ちょっと先に座ってただけじゃないか。空いたよって声を掛けてあげれば座りやすいであろう。
 ちょっとした言葉で気持ちよくなる。それが布施の心じゃ。

なるほど、ちょっとは坊さんらしく見えたね。今度お菓子でも持ってきてあげるよ、なにがいい。

それはご馳走さま、でも何が良いとはいえんのじゃ。

なんで、どうせなら好きなのがいいじゃない。

それがな、これが好きだと分かると、お参りに伺うと、どこでもそればっかり出てくるのじゃ。
 だからな、言わん方が良い。いろんなものが食べられる。