ｿｳﾘﾝﾒｰﾙ　No.53
「三毒」

お坊さん、金魚鉢壊されたんだって。
そうなんじゃ、先日の夜近所に来たお坊さんが、ちょっと車置かせてというので、どうぞといったら、駐車場に入れないで本堂の前にバックで車を止めようとして、本堂前においておいた金魚鉢にぶつけたのじゃよ。
あの金魚鉢、日当たりの悪いところに置いていたら、どんどん氷が厚くなって、金魚が氷漬けになるところだったっていってたのじゃないの。
そうじゃよ、氷を割ってやっと助け出して、日の当たる本堂前に移したばかりなのじゃよ。
かわいそうに、氷に閉じ込められる恐怖からやっと救い出されたのに。
かわいそうなのはこっちも同じじゃよ、去年やっと６０ｃｍの睡蓮鉢を２つ見つけて、睡蓮と金魚を移して、やっと落ち着いたところなんじゃから。急いで探してみたが、ないなあ。
あんな大きい睡蓮鉢なかなかないわよね、高かったでしょ。
いや、そんなには高くなかったよ。
そうよね、けちなお坊さんが高いの買ってくるわけないものねぇ。
ところがそれが問題じゃ。
なんでなの
壊したものは七千円ほどのものじゃが、今どこを探してもあの大きさでそんな安いものがないのじゃ。お金で弁償してもらっては、同じ大きさのものが買えん。同じ大きさのものを買おうとすると五万円もする。貧乏なわしには到底買えんのじゃ
そりゃそうね、でも、壊した者に弁償しろっていえばいいんじゃないの。
だからといって五万円よこせとはいえんじゃろう。
同じ大きさのものを見つけさせればいいわよ。
壊したものが、弁償しますといってかえったのじゃが、そののち何の連絡もない。こちらからどうなってるともいえんしな。
お坊さんもいざとなったらだめなのね。
しょうがないから、掲示板に書いておいた。
どれ、「冬の夜　鉢こわされて　貪瞋痴(ﾄﾝｼﾞﾝﾁ)　阿修羅の怒り　金魚の憂い」
どうじゃ、名作だろう。
意味わかんないわよ、貪瞋痴ってなに？
貪瞋痴は三毒の煩悩といって、むさぼりといかりとおろかな心をいうのじゃ。鉢をこわされてそんな心が起きてしまったのじゃ。貪はむさぼりの心、鉢の弁償はどうしてくれる、お金か鉢かといろいろ思い悩んでいるところじゃな。
瞋は怒りなのね、でもお坊さんよりもすごいのが、阿修羅の怒りというわけだ。これは奥さんが怒ってるんでしょ。
よくわかるな。じゃあ「金魚の憂い」は。
奥さんが怒り出したので、気の小さいお坊さんが悩んでるってところでしょ。
いやいや、睡蓮鉢という世界で過ごしていた金魚がいきなり住処が無くなって、隣の大きな金魚と同居することになって困っているであろうというところじゃよ。われわれも今居るところが絶対大丈夫と思っているが、意外にもろいところだよ、といった意味もあるがな。
毒入り餃子でいきなり思い知らされちゃったように？
そうそう、お前さんもちょっと世界が見えてきたようじゃな。
でも、阿修羅と金魚は　奥さんとお坊さんにしか見えないけどね。