ｿｳﾘﾝﾒｰﾙ　No.55
「愛」

お坊さんさあ、中学生になった娘が突然、父さんのこと愛してる？　って聞くのよ。どう返事していいか困っちゃたわ。
ほう、恋愛だったんだろ、旦那さんのこと愛していないのかい。
結婚前だったら愛してたかもしれないけど、いまさらそんなの。
では、単身赴任先でなにがあってもいいと思っていると。
そりゃ困るけど、愛しているかと聞かれて、そうよとは返事しにくいわよ。
そうじゃろうな、ところで仏教では「愛｣はあまりいい意味で使っていないのじゃよ。愛とは「とらわれ」煩悩であるというのじゃ。
どうしてよ、恋愛映画を見ると、いいわーって思うわよ。
じゃあ、旦那さんが今　映画の通りのせりふを話したら、いいわーって思うかい。
ぞーっとするわよ。
昔は、それがよかったんだろ、それがいやになったというのは、愛の本質が見えてきたからじゃよ。なぜなら、愛とは独占欲のようなものじゃからな。結婚式という独占宣言をした当初はいいのじゃが、次第にわずらわしくなってくる、けれども他人に取られたくはない。今はそんなところじゃろう。
そういわれればそうかも。
「愛」は「憎む」と一対の言葉じゃ、愛していても相手がそれに応えなければ憎らしくなってくる。所詮、煩悩の一種じゃよ。
じゃあ、愛さないほうがいいの。お坊さんは奥さんのこと愛していないの。
そうじゃな、お見合いじゃからな、愛したことは無いのかな。好きでは有るがな。
おんなじじゃないの。
ちがうんじゃな、好きというものはいくつあってもいい、独占するということは無いから。妻も好きじゃが他の人も好きじゃよ。
ひどい、浮気し放題ってこと。
いやいや、「好き」の反対は「嫌い」じゃろう。妻に嫌われたくないから、好かれるように努力しているよ。二人の関係を大事にしているのかな。
嫌いじゃあなさそうね。
そうさ、好きだから相手がやりたいことがあれば、支えるし、手伝うよ。悪いところがあれば忠告して、より良くしてあげようとするさ。そこには独占したいというようなものは無いとおもうね。
思いやりの心ねぇ、うちの人にも教えてあげたいわよ。
日頃やりたいことをやっているのじゃないかね。
そりゃ、ほったらかされているだけよ。手伝ってくれたことなんか無いわよ。
そりゃあ残念じゃな。でも、お前さんも旦那さんをほっておいてるだけじゃないかな。お互い様じゃろう。もっと大事にしてあげなさい、独占的な愛はなくなっても、好きなことには違いなかろう。
憎くはないし、嫌いじゃあないってところかな。
ちょっと時間がある時、差し向かいでお茶を飲めれば十分じゃないのかな。言葉もいらないと思うよ。
なんだかしんみりするわよねー。旦那のお通夜みたい。