ｿｳﾘﾝﾒｰﾙ　No.62
「新車」

あら、お坊さん新車じゃないの、買ったの。

下さるような奇特な人はいないからなぁ、10年ぶりに新しくしたよ。

妙に小さいくるまねぇ、幅はあるけど長さはない、軽ではなさそうね。

そうさ、いつもは後ろに荷物を置いて二人乗り、シートを起こせば4人乗りさ。

ホントに4人乗れるの。

無理だね、でも大人3人乗れて子供が一人は乗れるさ。

前の車より小さくなったじゃない、あちこちぶつけるからなの。

いやいや、前からこんな車がほしいと車屋さんに言っていたのさ。

じゃあできましたというので早速というわけ。

いやこの車ができて4年ほどたつさ、高くて手が出なかった。

じゃあ安くなったの。

いや相変わらず高い、でも乗っていた車はガタがきて、私も年じゃ、これが最後の車かもしれんと思ってな、ちょうどエコカー割引があるしな。清水の舞台から飛び降りた。

奥さんに泣きついたというわけか、そりゃあ死ぬ思いよね。

でも、新しい車はいいぞ、乗せてやろうか。

けっこうよ、お坊さんとドライブなんて願い下げ。どうせ車の自慢を聞かされるだけだもの。

そりゃそうさ、そのために乗せるのじゃもの。

お坊さんもけっこう俗人ね、うちの旦那と変わらないわ。いい車が欲しいって騒いでるわ、車は動けばどれでもいいじゃないの。

それがな、車はその人の地位や名誉を現すものでな。社長や知事や議員さんは黒塗りの運転手つきの車に乗るだろう。

そうそう、ドアを秘書が開けると悠然と降りてきて、おーいや。

そんな地位の人が、小さな車の乗ってくるとちょっと親しみを感じるだろ。

そうね、でもエコカーなんかに乗っていかにも私は環境に配慮してますというのを見せらてるようでそれも嫌だけど。

だから車はその人の人格を表すものでもある。だから、いい車が欲しいというのも理由があるわけじゃ。

じゃあお坊さんの表したいことは、小さくてかわいくてお役にたちますってとこなの。

そこまでは考えていないが、ほとんど一人で乗っているのに大きな車はいらんと思ってな。

地位も名誉もありません、エコな車で実用第一ですってところね。

本当のエコは車に乗らないことじゃ、ガソリンの代わりに脂肪を燃やしてダイエットになるしな。

そんなこといっても、買い物に1時間も歩いていけないわよ。

昔の人は、半日かけて出かけたものじゃ、移動の時間も無駄ではないのじゃ、今の人は忙しすぎる。

じゃあ、お坊さんも車おいて歩きなよ。

いやいや、いろいろ忙しくてな。