ｿｳﾘﾝﾒｰﾙ　No.63
「座る」

連休になにつまらなさそうな顔をしてるんだい

旦那が単身赴任から帰ってきてるんだけど、けんかになってね。いつもはみない顔が目の前にあると、つい文句をいってしまうの。

たいしたことない事でも文句をいうわけじゃな。

いなきゃいないで気になるけど、いるとめざわりなのよ。

亭主元気で留守がいい、というわけだ。

もうすこしいるみたいだし、疲れるわ。

そりゃ気の毒に、ところで茶の間でどう座ってるのだい。

向かい合ってますよ、それがなに。

それが悪いのじゃな。相手の顔が見えると黙っておれんじゃろう。

じゃあ、どうすればいいっていうのよ。いちいち言うことが気に入らないの。こんな男だったかしらって。

並んで座ってごらん。ほらためしにわしと座ってみようか。

えー、気持ち悪い。手なんか握らないよね。

こっちから願い下げじゃ、いいから座ってごらん。

座ったわよ・・・・・

何か違うじゃろう。

そりゃ、お坊さんの顔を見ないで済むわね。なんだ、きれいな花があるわね。

そうじゃ、それが大事なんじゃ。いやなものを見ないで済む。

人の亭主をいやなものとは言ったわね。自分ではそう思っていても人には言われたくないわよ。

それは冗談、本当は同じものを見ているということが大事なのさ。同じ経験をすることで違う会話が生まれるじゃろう。

昔は二人で夕日の沈むとこを見てたこともあったわね。

そうじゃ、話すことは大事ではない、同じものを見ているだけでいいのじゃよ。

なんだか昔を思い出すわ、いい時代もあったのよね。

そうじゃ、頑張れと亭主の尻をたたくだけでなく、たまには昔を思い出して、一緒にお茶でも飲んでごらん。
心もほぐれるじゃろうよ。

お坊さんも仏さまと並んでみたらどうなの。憎まれ口も出ないかもよ。