私の会ったことのないおばあさん     (玲) No.101 1999/08/01

＜＜ただ如来のまちうけ下さるをよろこぶべし＞＞足利　義山(広島県)

▼今月のカレンダーの言葉は、足利義山和上です。じつは和上は私の祖母の祖
父になるそうです。祖母は母を早くなくし、祖父母に育てられ、法蔵坊に嫁ぎ
ました。私が生れたときには、祖母も亡くなられていましたし、私はお寺の世
界から離れていましたので、和上がどのような人か知らないまますごしてまい
りました。僧侶になろうと帰郷したとき、里の父に、読んで見たらと渡された
本が、甲斐和里子さんの「草かご」でした。その冒頭のしのぶぐさを読み、和
上のご功績と共にお人柄も教えていただきました。
▼仏教大学（今の龍谷大学の前身）の学長をしたり、第二三代ご門主勝如上人
に、真宗学を七年も進講された学者と聞けば、近寄りがたい感じがしますが、
その実大変無邪気な方だったそうです。新門様の教育係をしているのだからと、
本願寺の執行（今の総務）をしている息子にとめられているにかかわらず、変
装をして芝居見物をしたそうです。でも黙ってみることができず、「ようやる
のう」などと絶叫するためかえって目立ち、以後は変装を止めて見に行って下
さいと、息子に匙を投げられました。
▼こう老僧になると、誰も御法話をしてくれる人がないと、お説教を絶えず聞
きに行かれました。御講師は大概教え子なので自分がいては話しにくかろうと、
娘の影に隠れて、お説教を聞き、帰り道、ありがたかったのうと、お念仏され
たそうです。
▼和上が前田慧雲和上におっしゃたそうです。「学問も議論も結局何のやくに
もたちませんのうや、往生の一大事に至っては、あんたもわしもいろはも知ら
ぬただのじい（爺）にならねばいけません、思えばおもうほど広大無辺な大慈
悲でありますのうや。」学問は大事だが、往生には無用のもの、ただ阿弥陀様
のお慈悲を喜ぶのみといただいておられます。
▼和上は学問には厳しく、人には優しく、阿弥陀さまのお心をいかに私たちに
お伝えしようかと、努めていただきました。また、自分もその一人として、お
念仏を共に喜んでおられます。
▼私の曾祖母（和上の二女）の往生が迫ったときのお手紙に、「わが心をさぐ
りて、いろいろ案じ候へば、ワヤワヤとわからぬようになるべければ、それを
ばままよとうちすてて、このままを御助けとよろこぶべし。よろこばれぬとき
は、無理によろこぶにも及ばず、ただ称名して、御助けをまつばかりにすべし。
　（中略）　かえすがえす往生のことについては、一切如来様が引きうけて居
てくださるから、おまえは、ちつとも心配せいでもよろしく候。あらあらかしこ」
　とあります。如来のお慈悲をいただいて、そのままに生きる大切さを教えて
いただきました。