村上速水先生の教えてくださった本   (玲) No.104 2000/09/10

＜＜信心をはなれて仏さまというものはないものです＞＞曽我量深（新潟県）

▼私と智子が結婚することになったのは、二人の和上のお世話があったからで
す。そのお一人が父の親友である村上速水和上です。結婚後半年、智子の教師
教習を終えて、先生の研究室に挨拶に伺いました。四年前脳梗塞で倒れ、リハ
ビリに励みやっと復帰されたときでした。「お話をうまくすることはできなく
なったから、その代わりに」と、ある一冊の本を読むようにと教えてください
ました。
▼『大きな手のなかで』という重障児をもつ母親と念仏医者との往復書簡集で
す。途方にくれ絶望の日々を送っていた若い母親が、師とめぐりあい、生きる
意味を問い続けて、やがて確かな光明に包まれていくまでの歩みが語られます。
▼仏教は私が仏になる教えです。周りが変わるのでなく、私が変わっていくの
です。仏さまの願いにより私が変わり、同じ事柄が違って見えることに気がつ
く。人の生き方を通して語られる、専門用語がない仏教書です。
▼先生は学者としてとても厳しかったそうです。でも、子供をつれて始めて挨
拶に伺ったとき、息子が飛びついていったのです。とても優しい先生でした。
病を得てそれを「有り難い」と受けとめておられました。私たちに学問の師で
なく、お念仏の人として、これからの生活の基礎となるよう、仏さまを教えて
くださったのです。お念仏は、学問ではないよ信心なのだよと、私たちに、自
分の生きるささえとしてのお念仏を薦めてくださいました。
▼和上がはるか鹿児島の地でご逝去されてもうじき半年になります。